インタビュー

#08 岡田智准教授

ON × OFF Interview 挑戦者たちの素顔

挑戦者たちの素顔 後藤 知代 メイン 挑戦者たちの素顔 後藤 知代 メイン

イメージングで世界を変える!
“考える”を目に見える世界を目指して

#08岡田 智

OKADA, Satoshi
東京科学大学総合研究院
化学生命科学研究所
CHAPTER 1

先輩・恩師との出会いで研究者に

百聞は一見に如かず。生体分子の挙動や生体反応を、視覚情報に置き換えて観察することができる分子イメージングは、最も説得力のある生体解析技術である。磁気共鳴イメージング(MRI)の造影剤を用いた独自の分子イメージング技術で注目されているのが、東京科学大学総合研究院化学生命科学研究所の岡田智准教授だ。

岡田准教授は 大阪大学工学部応用自然科学科を卒業し、乳酸菌の研究を続けるべく、大学院へと進学した。修士1年の途中から化学をやりたいという気持ちが強くなり、当時の指導教官に相談し、研究室を変わることになる。これが岡田准教授の研究者人生の大きなターニングポイントとなった。
「大学院に入った直後、先生の講義に衝撃を受けました」岡田准教授は、当時の印象を語り始めた。“先生”とは、富山県立富山中部高校の先輩であり、大学院修士・博士課程の指導教員となった大阪大学大学院工学研究科生命先端工学専攻の 菊地和也教授のことである。「説得力のある話にビビッときて、菊地先生のもとでイメージング研究を行いたいと思いドクターコース進学を決めました」岡田准教授は笑顔で続けた。菊地研ではMRI造影剤の基礎研究開発を行い、現在の礎となっている。「MRIに関する研究を心からやりたかった!という訳ではなく、提案されたテーマをなんとなく受け入れたというのが正直なところ。菊地研の看板であった蛍光イメージングの方が見た目も派手で魅力があったが、あまり聞き慣れなかったMRIというワードがM1の途中から移ってきた自分に向いている気がした」そう言って照れて笑った。

大学院生として研究をしている2008年、下村脩博士らが「緑色蛍光タンパク質 (GFP) の発見と開発」でノーベル化学賞を受賞し、バイオイメージングの注目度が増したことも岡田准教授の研究者魂をより一層、熱くさせた 。

CHAPTER 2

研究の基礎を鍛えられた下積み時代

 

大阪大学で博士の学位を取得した岡田准教授は、研究者としてのスタートを海外に求めることとなる。マサチューセッツ工科大学(MIT)のAlan Jasanoff教授に自らコンタクトを取り、アメリカに渡った。Jasanoff教授はMRIを用いた脳機能イメージング法であるfunctional MRIの世界的な権威であり、彼の下で6年間のポスドク生活を送り、神経活動イメージングのためのMRI造影剤の研究に専念した。「クリスマスで誰もいない中、一人で実験したこともありました」米国にて研究者としての基礎を地道に築き上げつつ、脳内カルシウムシグナリングをMRIで初めて可視化する造影剤を開発するなど、大きな成果を挙げた。

6年間のポスドクを経て、産業技術総合研究所(産総研)の研究員に着任し、研究プロジェクトの立ち上げや、研究環境の整備に奔走した。「今思うと、あのとき巻いた種が今も役に立っています。あの時間があったからこそ、研究の基盤・アイディアを磨くことができました」。

二年後、岡田准教授は現在の所属である東京工業大(現東京科学大)の准教授に着任する。時は2020年4月、「着任してすぐにコロナでロックダウンしてしまい、ほとんどの学生との初対面がオンラインだった」と当時を振り返る。大学ではMRI造影剤に加え、磁場に応答する材料を使ったドラッグデリバリーに関する研究を展開している。岡田准教授はイメージング分野の現状について「イメージング自体が頭打ちというかやりつくされた状態にある。臨床への応用は勿論のこと、イメージングは生物学の教科書を書き換えるための方法論の1つであるということを常に見失わないようにしなければならない」と課題を挙げた。

研究のアドバンテージを問うと、「元々の研究バックグラウンドが生物工学だったことが私の強みとなり、改変タンパク質を造影剤の開発に取り入れるといったアイディアの源になっているのかもしれません。オリジナルのプローブをつくり、自分たちにしかできないイメージング技術で生物学の問いに答えられたらと思います」そう語る岡田准教授の眼は自信で満ち溢れていた。

CHAPTER 3

無為の人、雑念に捉われない人になりたい

 

世情休説不如意
 無意人乃如意人

座右の銘を尋ねると、福沢諭吉の漢詩の一節を岡田准教授は引用した。博士の学位授与式で知ったこの一節が今も心に残っているという。写真はそのときのものである。

福沢諭吉は、岡田准教授の母校である大阪大学(正確には阪大医学部)のルーツである適塾で学んだことで知られる。“自分の思う通りにならないからといって、世の中のせいにするな。無心に物事に取り組む人こそ、自分の意のままに生きられる人である”という意味だそうである。

研究人生には、自分の意志どおりに進まないことが多くある。岡田准教授が米国を始めとする様々な研究機関で活躍できたのは、この一節を胸に無為の人となるべく日々を過ごしてきたからなのかもしれない 。

CHAPTER 4

人々のQOLを向上させたい

 

「まだ自分の研究は基礎研究の域を超えていません。例えば、どうやって脳に造影剤を届けるか?等の課題が残る。人体や臨床にすぐに使えるか?というと、まだ難しい」そう言って真剣な表情を見せた。

「脳は不思議なもので、面白い。”考える”とはどんなことなんだろう?そう考えだすと、止まらない。人や動物の考えていることをイメージングできれば、大きなインパクトがある」人々の生活のクオリティ(QOL)を上げるのに自信の研究が役に立てたら、そんな熱い思いがひしひしと伝わってきた。

「将来的には考えていることをMRIでスキャンしてイメージングできたら面白いですよね。考えていることを定量的に評価できたら、そんな思いがあります」言葉が話せる人間は問診ができるが、動物は問診ができない。これがイメージングを使って人や動物の心を読む、現在の科学では夢のような話であるが、現実のものとなる日は遠くないのかもしれない。

OFFTIME TALK

  • ウィークエンドの過ごし方

    子供と一緒に虫取り

    休日の楽しみは子供との時間

    休日は子供と遊んでいることが多いです。平日に接点を持ってあげられないことが多いので、土日はできるだけ一緒にいます。ショッピングモールや本屋によく行きますが、公園や川など、自然や生き物と触れ合える場所が好きです。子供の視点に驚かされることがよくあり、大人には代わり映えしない風景の中でも、子供といることで新しい発見があります。子供と公園に通って、地上にでてきたセミの幼虫が羽化に成功する確率が相当低い(プロ野球の打率くらいだった)ことを初めて知って以来、セミの顔がいとおしく見えるようになりました。

  • ティーブレイク

    ボストン交響楽団

    クラシック音楽でリラックス

    クラシック音楽鑑賞で気分転換・リラックスしています。何かの拍子にある曲や演奏家にハマることがあって、飽きるまで同じ曲や同じ演奏家の演奏を聴き続けます。今、ハマっているのは、日本人初のショパンコンクール入賞者である田中希代子さんが演奏されたショパンのピアノソナタ第2番です。MITでポスドクをしていたころは、実験を途中で抜け出してボストン交響楽団を聴いて研究室に戻るという生活をしていました。

  • 猫との暮らしを夢見て

    マラソンで獲得したメダル

    陸上部で鍛えました

    高校時代は陸上部に所属し、短距離・中距離・長距離・駅伝、幅広くやっていました。MIT にいたころは、日本人ボストンマラソン部に入ってMITのトラックやCharles River沿いでランニングをしていました。四季折々の顔を見せてくれるCharles River沿いでのランニング、マラソン部の仲間たちと参加した200マイルマラソンリレーは、大切な思い出です。帰国後は全く走らなくなってしまい、子供と鬼ごっこをするだけで息が上がることに危機感を覚え、毎朝研究室のある9階まで三段飛ばしで階段を上がることだけは継続しています。

岡田 智OKADA, Satoshi

東京科学大学総合研究院
化学生命科学研究所 准教授

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