インタビュー

#06 福山真央准教授

ON × OFF Interview 挑戦者たちの素顔

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師匠の影響は絶大、
トコトン研究を突き詰める!

#06福山 真央

FUKUYAMA, Mao
東北大学多元物質科学研究所 准教授
CHAPTER 1

人との出会いと研究

化学物質の状態・量を計測することは、人間の健康維持だけでなく環境保全や安全管理など様々な場面で必要となり、人間社会の隅々に浸透している。そして、化学・生物学・物理学などの幅広い分野を股にかけ、新しい計測技術の開発することで人類の発展に貢献している多くの研究者がいる。東北大学多元物質科学研究所の福山真央准教授は、ナノ・マイクロメートルサイズの空間とその界面を駆使して、新たな分析手法の開発に携わっている若手研究者の一人である。

福山准教授は東京大学大学院工学部応用化学科を卒業し、東京大学生産技術研究所の火原彰秀准教授(当時:写真右、現東京工業大学理学院化学系 教授)の研究室へと進学し、修士・博士の5年間を過ごした。福山准教授は当時の火原准教授について「火原先生は博学な先生で、どの分野のことについても適当なことを言うとすぐバレるんです。」と評した。「ケミストリー・サイエンスだけでなく文学などどこを取ってもよくご存じでした。修士1年の頃、カミュのペストについて私が適当なことを言ったら、「カミュは絶対そんなこと書かないし!」と一発でバレました。とても感銘を受け、こんなにものをよく知っている先生が分析化学の研究者をやっているということは、分析化学という研究分野は楽しいのだろうなあと思いました。この先生にちゃんと5年間師事して研究を学ぼうと思いました。」と懐かしそうに話した。

学位を取得した福山准教授は、東京工業大学にて学振特別研究員(PD)として約1年の時を過ごした。その後、京都工芸繊維大学では大学戦略推進機構系においてテニュアトラック助教となった福山准教授は、博士課程の半ばに気が付いた”自然乳化”についての研究を続けることになった。助教の自由に研究させてくださるスーパーバイザーの前田耕治教授の教育・研究方針を、福山准教授は感謝の意を込めて”自由の刑”という言葉を使って表現した。「この時の悩みや足掻きがあったからこそ今がある。自分が好きな実験・現象と、研究の目的・展望を一致させることができた」と振り返る。
 その後、再び火原教授とのご縁があり、東北大学多元物質科学研究所にて教授・助教として再びタッグを組むこととなる。

CHAPTER 2

化学現象を定量したい

 

化学物質が対象物の中で、どのような状態でどのくらい存在しているか、それを調べる手法を開発するのが分析化学である。人間の身体の中でも様々な物質が、様々な状態でうごめいている。それらを分析する新しい手法を開発することが福山真央准教授の研究だ。特に、福山准教授はマイクロ流体と界面化学を駆使して新規手法の開発に挑んできた。「自分の直感的な印象と界面の動き・機能の学理を結びつけてくれたのが、これらの本です。」そう言うと、書庫から二冊の本を取り出してきた。なかでも、修士の頃に読んだドゥジェンヌの「表面張力の物理学」が面白く、今でもよく読み返すそうだ。

大学院時代から研究していた「自然乳化って面白い」から始まった微量分析法開発が、最近ようやく確立されてきた。そこで、応用先として、福山准教授は身の回りの気になる現象から、最先端を考え出すことにした。その最たるものが細胞の中の水である、福山准教授はそう気づいたのである。「化学物質の量や界面化学現象をきっちり定量的に記述したいから分析化学とマイクロ流体の研究をしている」と語る福山准教授は、細胞の込み入った環境の中で起こる化学現象を記述するうえでの重要なファクターは水ではないかと考えた。そして、水の影響を大きく受けるであろう現象の例として、核生成という観点を切り口にして研究を進めていきたい、そう述べた。

核生成は再現性の出にくい現象であり、実験系の構築に非常に苦労する。そこで福山准教授は、マイクロ流体を用いることで再現性の良い実験システムを開発した。「核は、その系中に1個でもできると、系全体がガラッと変化します。だから核生成の実験的解析は難しい。でも、こういう難しい現象は”大好物なんです”。こういう現象を定量し、記述することに研究者としての楽しさを感じます。」と目を輝かせた。

CHAPTER 3

共同研究から次元の融合へ

 

師である火原教授が東北大多元研在籍時はクロスオーバーアライアンスの副委員長を務めていたこともあり、福山准教授はアライアンス活動に積極的な研究者の一人である。福山准教授は今年度より、大阪大学産業科学研究所の永井健治教授、高田悠里助教らとともにクロスオーバーアライアンスの若手育成事業である”若手フィージビリティスタディ(若手FS)”を実施している。
 「別の分野の最先端に触れておくことが大事。その分野の相場観、世界感がわかる。自分の研究をいつかは創薬につなげたいと思いっていたが、”とっかかり”がなかった。早いうちから突っ込んだ話ができる機会を見つけられるのでアライアンスは有利だと思う。高田先生ともアライアンスがなかったら出会えなかった。」と語った。

現在は、マイクロ流体を用いた核形成の定量解析についての研究がメインのテーマである。とくにタンパク質の凝集体であるアミロイドは様々な疾患で観察されるが、いつ・どこで・どのように形成されるのか、まだ解明されていない。これがわかれば多くの疾患の理解へとつながるであろう。「この研究は、”わらしべ長者”なんですよ。知り合いの先生にタンパク質の液液相分離のお話を伺い、その恩師の先生にタンパク質サンプルをご提供いただきました。ここで自分の界面化学の知識を基に、核生成が測れるような手法を開発しました。そうして今度はアミロイドの専門家の先生方に実験結果のディスカッションのマナーを習い、論文にまとめることができました。今は、マイクロ流体の面白さを加えていって、だんだん新しい研究として構築できて来たと思っています。」独特の表現を使うところが、なんとも福山准教授らしい。

融合研究に期待することは?そう問いかけると福山准教授は「基礎から応用まで次元を通貫した研究をしたい、となると異分野融合は必須だと思います。私は分析化学分野の研究者なので、「測れ!化学現象を理解しろ!」というDNAが自分内側にあって、それを軸に融合研究が成立しています。」と即答した。

CHAPTER 4

トコトン追求の結果が社会還元

 

「「そんなことない」とおっしゃる先生も大勢いらっしゃると思うのですが、私の場合は、研究は自己満足だと思っています。そして、この自己満足を責任もって追求し尽くしたいです。追求し尽くしたら、その先には様々な波及効果があると思っています。出口の一つとして社会貢献は十分に考えられます。」自己満足と表現しながらも社会貢献をイメージし、常に自分自身ではなくて社会へと視点が向いている。まだ、チャレンジの真っ最中だとはにかんだが、研究者としてのチームマネジメント術を身に着けたい・実験成功率をもっと上げたいと意気込む姿は実に頼もしい。

「バイオの夾雑環境に心を惹かれる。夾雑環境中の界面化学現象を定量的に記述しながら、研究者として歩んでいけたらいいな。」そう語る福山准教授に現在の科学の問題点を訊いてみた。「外部からの情報摂取のパスが限られていることが問題、専門外となるとなおさらである。例えば研究に役立つ文系情報など、どこで入手できるのかすらわからない。」と困惑する。常に外へと視点を向けているからこそ、感じるものなのであろう。
 近い将来、福山准教授によるアミロイドの核形成に関する研究がベースとなり、多くの疾病の患者が救われる日が来る、彼女の頭の中では既にそのイメージが完成されているのかもしれない。

OFFTIME TALK

  • オフの写真・その1

    週末は水戸で娘と一緒に

    只今、単身赴任中!

    仙台生活は、夫と娘を茨城に残しての単身赴任です。
    毎週末茨城に帰っているのですが、娘は夫が大好きで母が割って入る隙がありません。なんとか夫から娘を引きはがし、大自然に放牧しています。

  • オフの写真・その2

    仙台市青葉区「戸隠」さんのお蕎麦

    蕎麦が大好き♪

    蕎麦が大好きで、毎週のように蕎麦を食べています。もちろん、仙台では、一番町の戸隠さんがお気に入りです。週末にいる茨城も、おいしいものがたくさんあり食事がとても楽しみです。海が近いので魚がおいしく、魚好きの夫と娘は毎週のようにお刺身を食べています。茨城は蕎麦も有名で、蕎麦好きにはたまりません。

  • オフの写真・その3

    鉱物のペーパー磨きセット

    無心に石磨き

    最近、鉱物を紙やすりで磨くのにハマっています。鉱物の種類、形状、硬さによってやすりの種類を変えて磨くあたりが面白いです。子供にもみくちゃくされながら、モース硬度低めの鉱物(蛍石や琥珀など)を無心に磨いていると心が落ち着きます。鉱物がツヤツヤになると達成感があります。

福山 真央FUKUYAMA, Mao

東北大学多元物質科学研究所 准教授

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